ノスタルジック 〜序奏〜

油蝉が鳴いてる昼下がり 近所の喫茶店に行き 明るい窓際の席に座った
すぐにタオルのおしぼりと冷えた水をもっておばちゃんが注文を取りに来る

「いらっしゃい」
「ホットお願いします」…
「はぁぁい お待ちください」

常連客の近所のおじいちゃんおばあちゃんが世間話をしている
今日は天気がいいので洗濯を2回してからの珈琲タイムらしい...

抽出方法も豆の名前もわからないけれど美味しい珈琲と日替わりのお菓子が運ばれる
おしぼりで顔を拭き一口目をゆっくりと流し込んで 写真展の事を考えてみた 

テーマ、伝えたいこと、僕は何がしたい？
考えてみてもこれという言葉が浮かばない
とりあえず珈琲とお菓子が美味しい

さて 戻ろうか...
席に座ったまま財布の小銭を数えていると
おばちゃんはそそくさと南側の入り口のレジへ向かう
「ごちそうさま」
360円を置き ふとレジ横の水槽を見ると たくさんのネオンテトラの赤ちゃんが生まれたらしい
「ありがとね いってらっしゃい」

柔らかい陽が当たるこの場所とおばちゃんの世話がいいんだろうな…などと考えながら
次に来たらこの生まれたネオンテトラの赤ちゃんの話をおばちゃんにしてみようと思った

いつまでもずっとそこにあるとは限らないノスタルジックな空間
水槽から見えるあの日あの時

そんな雰囲気の写真を撮りたいと店を出た

2015.7 上野英和